戦略とは「何をするか」より「何をしないか」

戦略とは「何をするか」より「何をしないか」

WORK & THINK #02|FOUNDATIONS

前回、マーケティングについて考えました。

人を理解して、価値を考えて、届けて、選ばれる。

そう考えると、やれることっていくらでもあるんですよね。

・広告を出す
・SNSを更新する
・Webサイトを改善する
・新しい商品を作る
・キャンペーンをする

全部やった方が良さそうにも見えます。

でも現実には、時間も予算も人も有限です。

そこで出てくるのが、

「じゃあ、何をやる?」

という問題です。

今回は「戦略」について考えてみたいと思います。

戦略と戦術って何が違う?

「戦略」と「戦術」。

仕事でもよく使う言葉ですが、私は昔、この2つの違いがいまいち分かっていませんでした。

ざっくり言えば、

戦略(Strategy)=どこで、どう勝つかという大きな方針

戦術(Tactics)=そのために具体的に何をするか

と考えると分かりやすいです。

例えば、前回と同じカフェで考えてみます。

売上を増やしたい。

そこで、

「Instagramを毎日更新しよう」
「クーポンを配ろう」
「新メニューを出そう」

という案が出てきたとします。

これはどれも具体的な「打ち手」です。

でも、

なぜInstagramなのか?
誰に来てほしいのか?
その店は何を理由に選ばれたいのか?

が決まっていなければ、打ち手だけがどんどん増えていきます。

「とりあえずSNSをやる」は戦略ではないんですよね。

「全部やる」は戦略ではない

例えば、そのカフェがこんな店を目指したとします。

若い人にも来てほしい。
子育て中の家族にも来てほしい。
観光客にも来てほしい。
仕事中の人にも使ってほしい。
高齢者にも来てほしい。

一見すると、とても良さそうです。

誰でも来られる店。

でも、実際に店を作ろうとすると困ります。

子ども連れがゆっくり過ごせる広い席を増やす?

一人で仕事しやすいカウンターを増やす?

観光客向けに地域らしいメニューを充実させる?

回転率を上げるために席数を増やす?

価格は安くする?

それとも少し高くして、ゆっくり過ごせる店にする?

全部を満たそうとすると、だんだん「何の店なのか」が分からなくなってきます。

そこで必要になるのが、選ぶことです。

例えば、

平日の午後、近隣で働く人が一人でも入りやすく、短時間で気分転換できる店にする。

と決めたとします。

すると、

カウンター席を多くする。
一人でも頼みやすいメニューにする。
提供時間を短くする。
Wi-Fiや電源を用意する。

と、具体的な判断がしやすくなります。

逆に、

大人数向けの席は増やさない。
子ども向け設備を充実させることは優先しない。
長時間滞在を前提にしたサービスにはしない。

という「やらないこと」も見えてきます。

戦略には「トレードオフ」がある

戦略論で有名なマイケル・ポーター(Michael Porter)は、戦略を考えるうえで『Trade-off(トレードオフ)』を重視しています。

何かを選ぶということは、別の何かを選ばないということでもあります。

例えば、

安さを徹底する。

と、

一人ひとりに時間をかけて手厚く接客する。

は、両方を最大限に実現するのが難しい場合があります。

手厚いサービスには、人や時間が必要だからです。

もちろん、工夫や技術によって両立できることもあります。

なので、

「何かを良くしたら、必ず何かを犠牲にしなければならない」

という意味ではありません。

ただ、本当に両立しないものまで、

安くしたい。
高品質にしたい。
種類も増やしたい。
早くしたい。
一人ひとりにも対応したい。

と全部取りにいけば、どこかで無理が出ます。

戦略にはこうしたトレードオフがあり、だからこそ選択が必要になるという考え方です。

「改善すること」と「戦略」は同じではない

ここは個人的に面白いと思ったところです。

例えば、

Webサイトを速くする。
作業時間を短縮する。
ミスを減らす。
接客を改善する。

こういうことは、もちろん大切です。

でもポーターは、こうした『Operational Effectiveness(業務の有効性・効率を高めること)』と戦略(Strategy)を区別しています。

競合より効率よく仕事をすることは重要。

でも、効率化の方法は他社にも真似される可能性があります。

一方、戦略では、

「誰に、どんな価値を提供するのか」

を選び、それに合わせて複数の活動を組み合わせていきます。

つまり、

「今やっていることを、もっと上手にやる」

ことと、

「そもそも何をやるのかを選ぶ」

ことは違うんですね。

これは仕事をしていると、結構混ざりやすい気がします。

戦略があると、判断が少し楽になる

私は戦略の役割って、壮大な計画書を作ることだけではなく、

日々の「これ、やる?やらない?」を判断する基準を作ること

でもあると思っています。

先ほどのカフェなら、

平日の午後、近隣で働く人が一人でも入りやすく、短時間で気分転換できる店

という方針があれば、

「キッズスペースを作りませんか?」

という案が出たときも、

キッズスペースが良いか悪いかではなく、

「今の戦略に合っているか?」

で考えられます。

ここが大事なんですよね。

良いアイデアだから、全部やるわけではない。

良いアイデアでも、やらないことがある。

むしろ、それを決められるのが戦略なのかもしれません。

デザインでも「全部入れる」は起きやすい

これはデザインの仕事でもよくあります。

「この情報も大事だから入れたい」

「これも目立たせたい」

「この説明も必要」

「こっちの導線も残したい」

一つひとつを見ると、どれも間違っていません。

だからこそ難しい。

全部大事だから全部入れる。

全部目立たせたいから全部大きくする。

そうすると、結果として何が一番大事なのか分からなくなることがあります。

デザインでも戦略でも、

「何を足すか」だけではなく、「何を捨てるか」

が必要なんだと思います。

DESIGNER’S QUESTION

DESIGNER’S QUESTION
02

「これも入れて」と言われたとき どう入れるかを考える前に、 「何を達成したい?」に戻れているだろうか?

NEXT THINK

何をするかを選び、何をしないかを決める。

これが戦略だとすると、一つ問題が残ります。

一生懸命考えて、最適な戦略を選んだとしても――

NEXT THINK

そもそも最初の「問い」が間違っていたら?

#03
AI時代、
「良い問い」は
なぜ重要になるのか

参考・関連資料

Michael E. Porter, “What Is Strategy?”, Harvard Business Review, 1996.
戦略と業務効率の違い、ポジショニング、トレードオフ、活動間のフィットについての代表的な論考です。

本記事のテーマに関連する研究・書籍・資料を、内容確認やさらに学びたい方のために掲載しています。
掲載資料のすべてを筆者が通読したものではありません。