「見えている」と「見ている」は違う

「見えている」と「見ている」は違う

WORK & THINK #04|HUMAN

前回、「良い問い」について考えました。

問題の捉え方を変えると、見えてくる答えも変わる。

では、そもそも私たちは、

目の前にあるものを、ちゃんと見ているのでしょうか。

例えば、Webサイトを作ったとします。

ボタンも置いた。
説明も書いた。
大事な情報は目立つ位置に置いた。

それなのに、

「ボタンがどこにあるか分からなかった」

「そんなこと書いてありました?」

と言われる。

作った側からすると、

「いや、ちゃんとここにあるんだけど……」

と思います。

でも実は、

そこに「ある」ことと、人が「見る」ことは同じではありません。

今回は、人間の「注意」について考えてみます。

目に入れば、見える?

人間の目には、一度にたくさんの情報が入ってきます。

今この文章を読んでいるときにも、

文字だけでなく、画面の端、スマートフォンの時刻、周囲の家具、自分の手、背景の色……

いろいろなものが視界には入っています。

でも、

そのすべてを同じように認識しているわけではありません。

私たちは、そのとき必要なものに「注意」を向けながら世界を見ています。

このことがよく分かる、有名な実験があります。

目の前の「ゴリラ」に気づかない

1999年、心理学者ダニエル・シモンズ(Daniel J. Simons)とクリストファー・チャブリス(Christopher F. Chabris)は、現在では「見えないゴリラ」として有名になった実験を発表しました。

参加者は、複数の人がバスケットボールをパスしている映像を見ます。

そして、

「白い服を着た人たちが何回パスしたか数えてください」

という課題を与えられます。

みんな一生懸命パスを数えます。

ところが映像の途中で、

ゴリラの着ぐるみを着た人物が画面の中央を横切ります。

しかも一瞬ではありません。

画面の中央まで来て、胸を叩き、そのまま歩いていきます。

かなり目立ちます。

それなのに実験では、条件によって差はあるものの、多くの参加者がこの予期しない出来事に気づきませんでした。

このような現象を、

Inattentional Blindness
(非注意による見落とし)

と呼びます。

ゴリラは見える場所にいました。

でも、

「見える場所にある」ことと「気づく」ことは違った。

ということです。

見えることと注意が向いて気づくことは違う

見落とした人は、ちゃんと見ていなかった?

ここが面白いところです。

ゴリラに気づかなかった人は、

「ぼーっとしていた」

わけではありません。

むしろ逆です。

参加者は、

「パスの回数を数える」

という課題に一生懸命集中していました。

つまり、

注意していなかったから見落とした

というより、

別のものに注意を向けていたから、予想していなかったものを見落とした

と考える方が近いのです。

私たちは世界をカメラのように丸ごと記録しているわけではありません。

大量の情報の中から、

「今はこれを見る」

と選びながら見ています。

同じ場所を見ても、目的によって見えるものが変わる

例えばスーパーで、

「牛乳を買おう」

と思って売り場を歩いているとします。

頭の中では、

「牛乳、牛乳……」

となっています。

その途中に、

新商品のPOPがある。
別の商品が特売になっている。
棚の配置が少し変わっている。

それでも気づかず、牛乳だけ取って帰ることがあります。

でも、

「今日の夕飯、何か安いもので考えよう」

と思って同じ売り場を歩いたらどうでしょう。

今度は、

「本日半額」

のPOPが真っ先に目に入るかもしれません。

場所は同じです。

目に入っている情報も、それほど変わりません。

違うのは、

「何を探しているか」

です。

つまり私たちは、世界をそのまま全部見ているというより、

目的に合わせて情報を選びながら見ている

とも考えられます。

だから「大きくすれば見てもらえる」とも限らない

ここまで考えると、デザインでも少し不思議なことが起こります。

重要な情報がある。

それなら、

大きくする。
色をつける。
目立つ場所に置く。

そうすれば見てもらえそうですよね。

もちろん、大きさや色、コントラスト、配置は注意を引く重要な要素です。

でも、

「目立つ」=「必ず見られる」

ではありません。

Webでは、これを考えるうえで面白い現象があります。

Banner Blindness
(バナーブラインドネス)

です。

派手なバナーほど、見てもらえる?

バナーブラインドネス(Banner Blindness)とは、Webページを見るときに、バナーや広告のように見える領域をユーザーが無視してしまう現象です。

この言葉が広く知られるきっかけになった1998年のジャン・パネロ・ベンウェイ(Jan Panero Benway)の研究では、ユーザーが特定の情報を探す課題に取り組んだとき、大きく目立つバナー形式の情報を見落とすことが確認されました。

作り手からすると不思議です。

重要だから、

大きく、目立つようにした。

それなのに、

見つけてもらえない。

なぜでしょう。

ここでも「何を探しているか」が関係してきます。

例えば、ECサイトを見ながら、

「送料はいくら?」

と探している人がいるとします。

画面には、

新商品のバナー。
キャンペーン。
会員登録。
おすすめ商品。
SNSへのリンク。

いろいろな情報があります。

でもユーザーの頭の中にあるのは、

「送料はどこ?」

です。

すると、どれだけ派手なキャンペーンバナーがあっても、

「今探している情報とは関係なさそう」

と判断され、注意の対象から外れてしまうことがあります。

後のアイトラッキングを使った研究でも、ただページを眺める場合より、特定の情報を探す目的を持っているときの方が、広告バナーが無視されやすくなることが報告されています。

つまり、

注意して見ているからこそ、別のものを見なくなることがある。

ゴリラ実験と、どこか似ています。

広告ではなくても「広告っぽい」と無視される

ここはデザインをする側にとって、さらに重要です。

バナーブラインドネス(Banner Blindness)という名前なので、

「広告が嫌われているだけでは?」

と思うかもしれません。

でも、そう単純でもありません。

初期の研究で扱われたのは、通常の広告だけではなく、バナーのような見た目をした情報やリンクも含まれていました。

つまり、

本当は重要な情報なのに、広告のようにデザインしたことで無視される

可能性もあるわけです。

例えば、

重要なお知らせ

だからと、

派手な色をつけて、横長の大きなバナーにする。

作り手としては、

「これなら絶対に気づく」

と思います。

でもユーザーが、

「この形は広告っぽい」

と判断してしまえば、逆に読み飛ばされるかもしれません。

ここでも、

作り手が目立たせたいもの

と、

ユーザーが注意を向けるもの

は必ずしも一致しないのです。

目立っても注意が向くとは限らない

ただし「バナーは誰も見ない」ではない

ここは少し注意が必要です。

『バナーブラインドネス』という言葉だけを見ると、

「人はバナーを見ない」

と思ってしまいそうです。

でも、そこまで単純ではありません。

後のアイトラッキング研究では、多くの参加者が広告を少なくとも一度は注視していたという結果もあります。

また、広告とページの内容との関連性や、配置、見た目、ユーザーの目的などによっても結果は変わります。

つまり、

❌ バナーは見られない

ではなく、

○ バナーのような領域は、ユーザーの目的や文脈によって選択的に無視されることがある

くらいに考えるのがよさそうです。

大切なのは、

「派手にすれば必ず見てもらえる」と思わないこと。

です。

「表示した」は「伝わった」ではない

ここまでをWebデザインに戻して考えてみます。

例えば、ある情報を画面に置いたとします。

作った側としては、

「表示した」

ことになります。

でも、

表示された情報がユーザーの注意に入る。

そして、

内容を読む。

さらに、

意味を理解する。

ここまで進んで初めて、

「伝わった」

と言えるのかもしれません。

表示したは見たとも理解するとも違う

だから、

「ここに書いてあります」

は、作り手にとっては正しくても、ユーザー体験として十分とは限りません。

表示した。

でも見られていない。

見られた。

でも理解されていない。

この間には、それぞれ別の壁があります。

デザインは「視線」だけでなく「目的」を考える

デザインでは、

「どこを見てもらうか」

をよく考えます。

文字を大きくする。
色を変える。
余白を作る。
配置を変える。

もちろん、どれも大切です。

でも注意について考えると、そのもう一段手前に、

「この人は今、何をしようとしている?」

という問いがあることに気づきます。

例えば、

「応募する方法を知りたい」

人と、

「このサービスが自分に必要か知りたい」

人では、同じページを見ても探している情報が違います。

だからデザインでは、

「何を目立たせる?」

だけではなく、

「何を探している人が見る?」

まで考える必要がある。

ここは前回の「良い問い」の話ともつながっています。

「見てくれない人」を責めない

デザインをしていると、

「ちゃんと書いてあるのに」

と思うことがあります。

でも、

書いてあるのに見つけられない。

目の前にあるのに気づかない。

目立つのに無視する。

こうしたことは、人間の注意の仕組みを考えれば、それほど不思議なことではありません。

私たちは、目の前にある情報を全部同じように処理しているわけではないからです。

だから、

「ユーザーがちゃんと見てくれなかった」

で終わらせるのではなく、

「なぜ、そこに注意が向かなかったんだろう?」

と考えてみる。

もしかすると、

目立ち方ではなく、位置の問題かもしれない。

情報量の問題かもしれない。

ユーザーが探しているものと、こちらが見せたいものがズレているのかもしれない。

あるいは、

目立たせすぎて「広告」と判断されているのかもしれない。

「見てもらう」を考えるだけでも、デザインにはこれだけたくさんの問いがあります。

DESIGNER’S QUESTION

DESIGNER’S QUESTION
04

「ここにあるから分かるはず」と、
作り手の視点だけで 考えていないだろうか?

NEXT THINK

人は、目の前にあるものすべてを見ているわけではない。

注意を向ける情報を選びながら、世界を見ています。

では、

注意を向け、一度は見た情報なら、ちゃんと覚えていられるのでしょうか?

残念ながら、そうとも限りません。

NEXT THINK

人は「一度理解した」ことも
時間が経てば忘れてしまいます

#05
人はなぜ忘れるのか?

参考・関連資料

Simons, D. J. & Chabris, C. F. (1999). “Gorillas in Our Midst: Sustained Inattentional Blindness for Dynamic Events.” Perception, 28(9), 1059–1074.
非注意による見落としを扱った「見えないゴリラ」で知られる代表的研究です。

横澤一彦・大谷智子(2003)「見落とし現象における表象と注意―非注意による見落としと変化の見落とし―」『心理学評論』46(3), 482–500.
「非注意による見落とし」と「変化の見落とし」を日本語で整理したレビュー論文です。

Benway, J. P. (1998). “Banner Blindness: The Irony of Attention Grabbing on the World Wide Web.” Proceedings of the Human Factors and Ergonomics Society Annual Meeting, 42(5), 463–467.
目立つバナー形式の情報がユーザーに見落とされる現象を報告した初期研究です。

Resnick, M. L. & Albert, W. (2014). “The Impact of Advertising Location and User Task on the Emergence of Banner Ad Blindness: An Eye-Tracking Study.” International Journal of Human-Computer Interaction, 30(3), 206–219.
アイトラッキングを使い、広告の配置やユーザーのタスクとBanner Blindnessとの関係を検討した研究です。

本記事のテーマに関連する研究・書籍・資料を、内容確認やさらに学びたい方のために掲載しています。
掲載資料のすべてを筆者が通読したものではありません。