WORK & THINK #03|FOUNDATIONS
前回、戦略について考えました。
戦略とは、全部をやることではなく、
何をやり、何をやらないかを選ぶこと。
では、ちゃんと選べればそれでいいのでしょうか。
ここでもう一つ、気になることがあります。
一生懸命考えて、すばらしい答えを出したとしても、
そもそも最初の問いが間違っていたら?
今回は「答え」ではなく、問いについて考えてみたいと思います。
私たちは、すぐ「答え」を考えてしまう
例えば、あるお店の売上が落ちているとします。
そこで、
「どうすれば広告でもっと人を集められるだろう?」
と考える。
SNS広告を出す。
キャンペーンをする。
チラシを配る。
いろいろな答えが出てきそうです。
でも、少し立ち止まってみます。
本当に問題は、
「人が来ないこと」
なのでしょうか。
実は来店者数は変わっていなくて、客単価が下がっているのかもしれない。
一度来た人が、二度目に来ていないのかもしれない。
そもそも商品自体が、今の顧客に合わなくなっているのかもしれない。
だとすると、
「どうやって人を集める?」
という問いにどれだけ優秀な答えを出しても、問題は解決しないかもしれません。
答えを考える前に、何を問題としているのかを疑う。
ここが意外と難しいんですよね。
「問題を解く」と「問題を見つける」は違う
問題解決というと、
Problem → Solution
というイメージがあります。
問題があって、それを解決する。
でも現実の仕事では、最初から「正しい問題」がきれいに置かれていることは、それほど多くありません。
トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ(Thomas Wedell-Wedellsborg)は、企業では問題を解く能力以上に、「何が問題なのか」を正しく診断することに苦労していると指摘しています。
彼が106人の経営層を対象に行った調査では、85%が「自分たちの組織は問題診断が苦手」と回答しています。
そこで出てくるのが、
Reframing(リフレーミング)
という考え方です。
一度与えられた問題をそのまま解こうとするのではなく、
「本当に、この捉え方でいい?」
と、問題そのものを別の角度から見直してみる。
例えば、
「どうすれば広告を見てもらえる?」
ではなく、
「そもそも、なぜ知ってもらう必要がある?」
あるいは、
「どうすればこの画面にもっと情報を入れられる?」
ではなく、
「この画面を見た人に、何をしてほしい?」
と問い直す。
問いが変わると、考える答えの範囲も変わります。
リフレーミングは「唯一の正しい問題を発見する」というより、
「別の捉え方をしたら、もっと解く価値のある問題が見えてこない?」
と探してみる方法、と考えると分かりやすいと思います。

AIは「答えること」をものすごく速くした
ここでAIの話になります。
生成AIを使うようになって、仕事の中で「答えを作る」スピードは大きく変わりました。
文章の案を出す。
アイデアを20個出す。
情報を整理する。
比較する。
コードを書く。
画像の方向性を考える。
以前なら30分、1時間とかかっていたことでも、AIなら短時間で大量の案を出せることがあります。
これはすごく便利です。
でも、だからこそ少し怖いところもあります。
例えばAIに、
「若い人に商品を買ってもらうための施策を20個考えて」
と聞けば、おそらく20個出してくれます。
でも、
「そもそも若い人を狙うべきなのか?」
は、その問いの中では検討されないかもしれません。
「若い人を狙う」という前提をこちらが置けば、AIはその前提に沿って答えを作れます。
つまり、
AIは、こちらが置いた前提そのものを、必ずしも疑ってくれるわけではありません。
ここはAIを使うときに、とても大事なところだと思います。
「良いプロンプト」より、「良い問い」
AIについて調べると、
「良いプロンプトの書き方」
という話をよく見かけます。
もちろん、指示の出し方は大切です。
目的、条件、対象、出力形式などを具体的に伝えれば、欲しい回答を得やすくなります。
でも、もっと手前にある問題があります。
例えば、
「20代女性向けのSNS広告案を10個、表形式で出してください」
これはプロンプトとしては具体的です。
でも、
なぜ20代女性なのか?
なぜSNS広告なのか?
そもそも解決したい問題は何なのか?
が間違っていたら、精度の高いプロンプトによって、
間違った方向へ、より速く進む
こともありえます。
だからAI時代に重要なのは、
HOW TO ASK
だけではなく、
WHAT TO ASK
なのだと思います。

「良い問い」とは、難しい質問をすることではない
ここで誤解したくないのが、
「良い問い=難しい問い」
ではないということです。
専門用語を使ったり、長い質問を書いたりする必要はありません。
むしろ、
私たちは何を解決しようとしている?
なぜ、それを問題だと思っている?
誰にとっての問題?
別の見方をすると、何が問題になる?
という、かなり単純な問いが効くことがあります。
では、こうした「問い」と問題解決には、本当に関係があるのでしょうか。
2024年に、人間とAIの「質問すること」と「問題解決」の関係を調べた研究があります。
ここでは、問題を大きく2種類に分けて考えています。
一つは、正解が比較的はっきりしている問題。
例えば、
「12 × 8 は?」
のような問題です。
これは問い方をいろいろ変えても、答えは96です。
もう一つは、正解が一つに決まっていない問題。
例えば、
「この店の売上をどう増やす?」
という問題です。
こちらは、
「新しいお客さんを増やす?」
「客単価を上げる?」
「リピーターを増やす?」
「そもそも商品を見直す?」
と、何を問うかによって考える方向そのものが変わります。
研究では、こうした正解が一つではない創造的な問題に取り組んだ場合、複雑で独創的な問いを作れる人ほど、質の高い解決策を出す傾向が見られました。
一方、正解が決まっている問題では、質問の複雑さと正答率に明確な関連は確認されませんでした。

つまり、
「良い問いを作れば、何でも解決できる」
という話ではありません。
また、この研究は相関を調べたものなので、
「良い問いを作ったから、良い解決策が生まれた」
と因果関係まで証明したわけでもありません。
ただ、
答えが一つではない問題ほど、どんな角度から問題を見るかが重要になる。
ということを考えるヒントにはなります。
マーケティングやデザイン、企画、戦略など、私たちが仕事で向き合う問題の多くはこちらに近いのではないでしょうか。
これは、実はデザイナーがずっとやってきたこと
ここまで考えていて、私はこれってデザインの仕事とかなり近いなと思いました。
デザイナーは、
「言われたものをきれいに作る人」
と思われることがあります。
でも実際には、
「この情報を全部入れてください」
と言われたときに、
「分かりました」
と全部配置するだけではありません。
なぜ、この情報が必要なんだろう?
誰が見るんだろう?
見たあと、何をしてほしいんだろう?
と考えます。
場合によっては、
「どうやって全部入れるか」
ではなく、
「そもそも全部入れる必要がある?」
と問いを変える。
これはまさにリフレーミングです。
デザインの研究でも、問題の捉え方を変える「framing / reframing」は、デザイン実践の重要な特徴として研究されてきました。
そう考えると、AI時代にデザイナーの価値がなくなるというより、
「作る力」だけではなく、「何を作るべきかを問い直す力」
の重要性が上がっていくのかもしれません。
AIに「答え」だけでなく「問い」を手伝ってもらう
では、AIを使わない方がいいのかというと、もちろん逆です。
AIは、問いを考える相手にもできます。
例えば、
「この問題設定には、どんな思い込みが含まれていますか?」
「この問題を別の立場から見ると、どう定義できますか?」
「私が見落としている前提を挙げてください」
「この問いを5つの違う角度から問い直してください」
と聞いてみる。
するとAIは、答えを出すだけでなく、自分の問いを疑うための壁打ち相手にもなります。
これはかなり面白い使い方だと思います。
AIに正解をもらうというより、
自分一人では思いつかなかった問いを増やす。
そう考えると、
人間が問い、AIが答える
だけではなく、
人間とAIで、一緒に問いをつくる
という使い方もできそうです。
DESIGNER’S QUESTION
「どう作る?」と考える前に
「そもそも何を解決する?」
と問い直せているだろうか?
NEXT THINK
問いを変えると、見える問題が変わる。
でも、ここでもう一つ気になることがあります。
同じものを見ているはずなのに、
ある人は問題に気づき、
ある人は気づかない。
そもそも私たちは、
目の前にあるものを、本当に全部「見て」いるのでしょうか
参考・関連資料
三好春陽・八重樫文(2023)「デザインにおけるリフレーミングの研究課題」『デザイン科学研究』2, 117–132.
笠松慶子・相野谷威雄(2022)「施策に資する研究活動の取り組み―人間工学的視点からデザイン思考を活用した事例を通して―」『人間工学』58(6), 252–259.
竹田陽子・妹尾大(2018)「デザイン思考の手法特性が発想プロセスに与える影響に関する一考察―アンカーとしての言語表現の役割―」
Thomas Wedell-Wedellsborg(2017)“Are You Solving the Right Problems?”, Harvard Business Review.
日本語版:「そもそも解決すべきは本当にその問題なのか―リフレーミングで問いを再定義せよ」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』
Raz et al.(2024)“Open and closed-ended problem solving in humans and AI: The influence of question asking complexity”, Thinking Skills and Creativity, 53.
安斎勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン―創造的対話のファシリテーション』学芸出版社.
本記事のテーマに関連する研究・書籍・資料を、内容確認やさらに学びたい方のために掲載しています。
掲載資料のすべてを筆者が通読したものではありません。