「見れば分かる」と「思い出せる」は別物― Recognition / Recall

「見れば分かる」と「思い出せる」は別物― Recognition Recall

WORK & THINK #07|HUMAN

前回は、人がすべての情報を一から考えるのではなく、目の前にある「手がかり」を使いながら判断していることを考えました。

虫眼鏡を見れば「検索かな」と思う。

ゴミ箱を見れば「削除かな」と思う。

私たちは、これまでの経験と目の前にある情報を組み合わせながら、

「たぶん、こうすればいい」

と判断しています。

では逆に、

手がかりが何もなかったらどうでしょうか。

知っているのに、思い出せない

久しぶりに会った人の顔を見て、

「あ、この人知ってる」

と思ったのに、

名前が出てこない。

そんな経験はないでしょうか。

顔を見れば「知っている」と分かる。

でも、何もないところから名前を思い出そうとすると出てこない。

この2つは、似ているようで少し違います。

心理学では、

再認(Recognition)
見たものを「知っている」と判断すること。

再生(Recall)
記憶の中から情報を取り出すこと。

と区別します。

#05でも少し触れました。

今回は、この違いをデザインの側から考えてみます。

RECALL思い出す≠RECOGNITION見て分かる

「一度説明したから、分かるはず」

例えば、初めて使うアプリ。

最初に、

「右にスワイプすると保存」
「左にスワイプすると削除」
「長押しすると編集」

と説明されたとします。

そのときは、

「なるほど」

と思います。

でも数日後。

もう一度アプリを開いたときに、

「保存って、どっちだっけ?」

となるかもしれません。

一度説明された。

そのときは理解した。

でも、必要なときに思い出せるとは限りません。

これは#05で考えた、

理解した(UNDERSTOOD) ≠ 覚えている(REMEMBERED) ≠ 思い出せる(RETRIEVED)

にもつながります。

「覚えやすくする」以外の方法がある

ここで作り手は、

「説明が足りなかったのかな」

と考えるかもしれません。

そして、

説明文を追加する。
チュートリアルを詳しくする。
マニュアルを用意する。

もちろん、それが必要なこともあります。

でも、別の方法もあります。

例えば画面上に、

← 削除

と表示されていたらどうでしょうか。

ユーザーは、

「削除ってどっちだった?」

と思い出さなくても、

見れば判断できます。

つまり、

覚えやすく説明する

のではなく、

覚えていなくても使えるようにする。

という考え方です。

「思い出す」より「見て分かる」

UI/UXの世界にも、この考え方があります。

ユーザビリティ研究者のヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)がまとめた「10 Usability Heuristics」の一つが、

Recognition Rather Than Recall(再生より再認)

です。

必要な情報や操作を見えるようにして、

ユーザーが記憶の中から情報を思い出さなくても使えるようにする。

という考え方です。

ここで大切なのは、

人の記憶力を上げようとしているわけではない

ということです。

人が忘れるなら、

忘れないように頑張ってもらうのではなく、

忘れていても使える環境をつくる。

人を変えるのではなく、デザインを変える。

メニューがあると、なぜ使いやすいのか

例えばパソコンで、

「ファイルを複製したい」

とします。

何も表示されていなければ、

正しいコマンドを自分で覚えていて、入力しなければなりません。

でもメニューに、

「開く」
「保存」
「複製」
「書き出し」

と並んでいれば、

その中から、

「これだ」

と選ぶことができます。

何もないところから答えを思い出すのではなく、

候補を見ながら判断できる。

これが、Recognitionの強さです。

ただし、

「メニューの方がコマンドより優れている」

という話ではありません。

毎日使う人なら、ショートカットを覚えてしまった方が速いこともあります。

初めて使う人と、毎日使う人では、

必要なデザインが違う

ということです。

覚えて使うと見て選びは違う

私たちは、記憶を「外」に置いている

これはUIだけの話ではありません。

例えばスーパーへ行く前に、

牛乳
卵
洗剤

とスマートフォンにメモしておく。

これは、

「忘れないように覚える」

のではなく、

「忘れても大丈夫なように外に置く」

という方法です。

カレンダー。

付箋。

ToDoリスト。

駅の案内板。

道路標識。

私たちの周りには、

覚えておかなくても行動できる仕組み

がたくさんあります。

デザインも同じです。

必要な情報を、人の頭の中だけに置かない。

必要なときに、必要な場所に置く。

「比較する」だけでも記憶を使っている

例えばネットショップで、2つの商品を比較するとします。

商品Aを見る。

3,000円。
500ml。

次に商品Bを見る。

3,500円。
700ml。

ここで、

「あれ、Aはいくらだったっけ?」

となる。

このUIでは、

比較するための情報を、ユーザーに覚えてもらっています。

でも、

商品Aと商品Bが同じ画面に並んでいたらどうでしょうか。

商品A商品B
3,000円3,500円
500ml700ml

ユーザーは、

覚えて比べる

必要がありません。

見て比べる

ことができます。

比較表は、単に情報を整理しているだけではありません。

ユーザーの記憶に任せていた仕事の一部を、

画面側が引き受けている

とも考えられます。

覚えて比べるより見せて比べる

デザインならどう考える?

ここで、自分が作った画面を見てみます。

ユーザーに、

「さっきの情報を覚えておいて」

「前の画面を思い出して」

「このアイコンの意味を覚えて」

「一度説明したから分かるよね」

と求めているところはないでしょうか。

例えば入力フォーム。

送信ボタンを押したら、

入力内容に誤りがあります。

とだけ表示された。

ユーザーは、

「どこが間違っているんだろう?」

と探さなければなりません。

それよりも、

郵便番号の入力欄のすぐそばに、

7桁で入力してください

と表示する。

必要な情報を、

必要な瞬間に、必要な場所へ置く。

それだけでも、

思い出す → 見て分かる

へ変えることができます。

でも、「全部見せる」でもない

ここで#04の話を思い出します。

人は、

画面にあるものを、すべて見ているわけではありません。

だから、

「覚えなくてもいいように、全部表示しておこう」

と情報を増やしすぎると、

今度は必要なものを見つけられなくなります。

全部覚えて

でもなく、

全部見せる

でもない。

大切なのは、

必要な情報が、必要なときに見つかること。

注意にも限界がある。

記憶にも限界がある。

だから、その両方を考えて情報を置く必要があります。

「なんとなく使える」は、偶然ではない

使いやすいアプリを触っているとき、

私たちは、

「再認性が高いな」

とは考えません。

ただ、

「なんとなく使える」

と感じます。

どこを押せばいいか分かる。

選択肢を見れば選べる。

前に何をしたか覚えていなくても進める。

その裏では、

人が覚えておくことと、画面が覚えておくこと

の役割分担が設計されています。

「分かりやすいデザイン」は、

説明が上手なデザインだけではありません。

思い出さなくても、次の行動が分かる。

それも「分かりやすさ」の一つなのだと思います。

DESIGNER’S QUESTION

DESIGNER’S QUESTION
07

その画面は ユーザーに
「覚えておくこと」を
求めすぎていないだろうか?

NEXT THINK

ここまで、

「覚えていなくても使える」

デザインについて考えてきました。

でも、毎日使うものでは少し違うことが起こります。

最初は、

「どこを押すんだっけ?」

と探していたのに、

いつの間にか迷わず押している。

最初は考えながらやっていたことが、

気づけば、ほとんど考えずにできるようになっている。

朝起きたら、スマートフォンを見る。

家を出たら、いつもの道を通る。

帰宅したら、手を洗う。

私たちの行動の中には、

「考えて、決めて、行動する」

という過程を、ほとんど意識しなくなるものがあります。

では、

NEXT THINK

意識していた行動は
どうやって「いつもの行動」に
変わるのでしょうか?

→
#08
習慣はどうやって作られるのか?
― Habit

参考・関連資料

Nielsen Norman Group, “10 Usability Heuristics for User Interface Design.”
ヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)がまとめたユーザビリティ原則。「Recognition Rather Than Recall」を、ユーザーの記憶負荷を減らすための原則の一つとして紹介しています。

Nielsen Norman Group, “Recognition vs. Recall in User Interfaces.”
再認と再生の違いを、ユーザーインターフェースとの関係から解説した資料です。

Durham, A. G. & Emurian, H. H. (1998).
“Learning and retention with a menu and a command line interface.” Computers in Human Behavior, 14(4), 597–620.
メニュー型とコマンドライン型のインターフェースについて、学習と保持の違いを検討した研究です。

本記事のテーマに関連する研究・書籍・資料を、内容確認やさらに学びたい方のために掲載しています。
掲載資料のすべてを筆者が通読したものではありません。