習慣はどうやって作られるのか? ― Habit

習慣はどうやって作られるのか? ― Habit

WORK & THINK #08|HUMAN

毎日やっていることなのに、

「今日もやらなきゃ」

とは考えていないことがあります。

朝起きたら、スマートフォンを見る。

洗面所に行ったら、歯を磨く。

家を出たら、いつもの道を通る。

最初からそうだったわけではないはずなのに、

いつの間にか、

考えなくてもやっている。

前回は、「思い出さなくても使える」デザインについて考えました。

今回は、そのもう一歩先。

なぜ行動そのものが「いつものこと」になっていくのか。

習慣(Habit)について考えてみます。

習慣は「続けていること」?

習慣というと、

毎朝ランニングする。

毎日、本を読む。

寝る前にストレッチする。

そんな「長く続けている行動」を思い浮かべます。

でも、習慣研究で重要なのは、

何日続けたか

だけではありません。

習慣研究者のウェンディ・ウッド(Wendy Wood)とデニス・ルンガー(Dennis Rünger)は、習慣に関する研究をレビューし、特定の文脈で同じ反応を繰り返すことで、文脈と行動の結びつきが形成されると整理しています。

例えば、

朝になった。

洗面所に行った。

歯ブラシが目に入った。

↓

歯を磨く。

毎朝、

「今日は歯を磨くべきだろうか?」

とは考えません。

いつもの状況が、いつもの行動につながっている。

ここに、習慣を考えるヒントがあります。

繰り返すことで習慣化する

「やるぞ」と考えなくても始められる

何か新しいことを始めるときは、

「運動しよう」

「本を読もう」

「勉強しよう」

と考えます。

そして、

いつやる?

どこでやる?

今日は疲れているけど、どうしよう?

と、そのたびに判断します。

でも、同じ状況で同じ行動を繰り返していると、その状況自体が行動の**手がかり(Cue)**になっていきます。

すると、

考える → 行動する

だったものが、

少しずつ、

いつもの状況 → 行動する

へ変わっていく。

習慣になるにつれて、

行動を始めるときに考える必要が少なくなっていく。

とも考えられます。

新しい行動を、いつもの行動につなげる

私がよく聴いているポッドキャスト『超リアルな行動心理学』の#001「継続するためのコツ」で、最初に紹介されていた方法があります。

それが、

すでに習慣になっていることに、新しい行動をくっつける。

という方法です。

番組では、テノール齋藤さんが、

顔を洗う → 体重計に乗る

という流れを習慣にしていると話していました。

顔を洗うことは、すでに毎日の生活に入っています。

そこに「体重計に乗る」という行動をつなげる。

すると、

「今日はいつ体重を測ろう?」

と毎回考える必要がありません。

顔を洗うことが、次の行動を始めるきっかけになります。

実は私も、似たようなことをしています。

髪を乾かす → スクワットをする。

髪を乾かしている時間に、少しだけ筋トレをしています。

「今日は筋トレをしよう」

と思って時間をつくろうとすると、なかなか続きません。

でも、髪は毎日乾かす。

だったら、

その時間にくっつけてしまう。

新しい行動をゼロから生活に追加するのではなく、

すでにある生活の流れに、新しい行動をつなげる。

これなら、少し続けやすくなります。

いつもの行動にセットにすることで習慣化する

「続ける」より、「始めやすくする」

#001には、もう一つ面白い話がありました。

ブログを書くのが面倒になりがちなフェルモンド齋藤さんは、

とりあえずパソコンの前に座る。

というところから始めるそうです。

さらに、

パソコンを前回作業していた続きの状態で閉じておく。

そうすると、次にパソコンを開いたとき、

すぐに前回の続きから始められます。

これも面白い考え方です。

「ブログを書く」という行動だけを見るのではなく、

そこにたどり着くまでの面倒を減らしておく。

例えば、

運動をしたいなら、ウェアを出しておく。

本を読みたいなら、机の上に本を置いておく。

勉強したいなら、前回のページを開いておく。

何かを始めるまでには、小さな手間がいくつもあります。

一つひとつは大したことではなくても、

疲れているときには、

「今日はいいか」

の理由になります。

だったら、

やる気を増やすのではなく、

始めるまでの「面倒」を減らしておく。

続けるためにできることは、

意志を強くすることだけではありません。

一人で頑張らない

#001では、

他人を巻き込む

という方法も紹介されていました。

一人で決めたことなら、

「今日は疲れているから、まあいいか」

とやめることができます。

でも、

誰かと一緒に走る約束をしている。

友達と勉強する。

チームで進捗を共有する。

となると、

自分の気分だけではやめにくくなります。

これも、

「もっと意志を強くする」

という方法ではありません。

自分一人の意志だけに任せず、

周りの環境にも、続けることを助けてもらう。

顔を洗ったら、体重計に乗る。

髪を乾かしたら、スクワットをする。

パソコンを開いたら、前回の続きが出てくる。

一緒にやる人をつくる。

方法は違って見えます。

でも、共通していることがあります。

「頑張って続ける」ことを、
本人の意志だけに任せていない。

「21日続ければ習慣になる」は本当?

習慣について調べると、

「21日続ければ習慣になる」

といった話を見かけることがあります。

でも、実際にはそれほど単純ではないようです。

フィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)らは、参加者に食事・飲み物・運動に関する行動を同じ状況で繰り返してもらい、その行動の『自動性(Automaticity)』がどのように変化するかを調べました。

その結果、自動性が十分に高まるまでの期間には、大きな個人差がありました。

分析されたケースでは、95%の水準に達するまでの推定期間は18日から254日。

「○日続ければ、誰でも習慣になる」

という単純なものではありませんでした。

そして、もう一つ興味深い結果があります。

一度実行できなかったことは、習慣形成のプロセスを大きく損なってはいませんでした。

1日できなかったら、失敗?

例えば、

「毎日10分、本を読む」

と決めたとします。

10日間続いた。

でも11日目は、疲れていてできなかった。

すると、

「せっかく続いていたのに」

と思ってしまいます。

そして、

一度途切れたことをきっかけに、全部やめてしまう。

でも習慣形成という視点で見るなら、

一度できなかったことより、

また、いつもの状況で繰り返すこと

の方が大切です。

毎日完璧に続けることと、

習慣をつくることは、

同じではありません。

多少続かなくても習慣化は失敗ではない

「やらないと違和感がある」

習慣になった行動には、不思議な感覚があります。

いつもやっていることをやらないと、

「何か忘れている気がする」

ことがあります。

歯を磨かずに寝ようとすると落ち着かない。

いつものルーティンを飛ばすと、何となく違和感がある。

「やらなければ」

と強く考えているわけではないのに、

やらない方が、いつもと違う。

研究では、習慣が形成されていく過程で、自動性が高まっていくことが調べられています。

最初は、

「やろう」と考えてから行動する。

それが繰り返されるうちに、

いつもの状況になると、あまり考えずに行動する。

へ変わっていく。

習慣になるとは、

「頑張れるようになる」ことより、
「頑張って始める必要がなくなる」こと

なのかもしれません。

「意志が弱い」で終わらせない

新しいことが続かなかったとき、

「私は意志が弱い」

と思ってしまうことがあります。

でも、

意志の強さだけを見るのではなく、

その行動の前後に何があるか

を見てみます。

いつもの行動につなげられないか。

始めるまでの手間を一つ減らせないか。

誰かと一緒にできないか。

「続けられる人になる」

ことだけを考えるのではなく、

続けやすい環境をつくる。

ここでも、

人を変えるより、環境を変える

という考え方が出てきます。

悪い習慣にも「きっかけ」がある

もちろん、この仕組みは良い習慣だけに働くわけではありません。

通知が来た。

↓

スマートフォンを見る。

テレビをつけた。

↓

なんとなくお菓子を食べる。

仕事で行き詰まった。

↓

SNSを開く。

こうした行動も毎回、

「よし、SNSを見よう」

と考えているとは限りません。

いつもの状況が、いつもの行動を呼び出している。

だから悪い習慣を変えたいときにも、

「もう絶対にやらない」

だけではなく、

何が、その行動のきっかけになっているのか?

を見る必要があります。

行動だけではなく、

その前にあるCueを見る。

デザインや仕事なら?

この考え方は、個人の習慣だけではありません。

例えば仕事で、

「忘れずにレビューしてください」

と毎回お願いする。

これでは、

レビューする人の記憶や意志

に頼っています。

それよりも、

制作が終わったら必ずレビュー工程に入る。

定例会が終わったら、そのまま議事録を開く。

毎週決まったタイミングで進捗を共有する。

仕事の流れそのものに、

次の行動を組み込んでおく。

そうすれば、

「忘れないように頑張る」

必要を少し減らせます。

デザインでも同じです。

毎回違う場所にボタンがある。

同じ操作なのに、画面によってルールが違う。

これでは、前回の経験を次の行動に使えません。

反対に、

いつも同じ場所に同じ操作がある。

同じ行動には同じ反応が返る。

前回の経験が、次回も使える。

すると少しずつ、

「考えて操作する」

必要がなくなっていきます。

#07では、

思い出さなくても使える

ことを考えました。

その先には、

考えなくても使えるようになる

という状態があります。

でも、「習慣にさせればいい」ではない

ユーザーに毎日アクセスしてもらう。

毎日通知を送る。

連続記録を表示する。

ポイントを与える。

サービスには、行動を繰り返してもらうための仕組みがたくさんあります。

でも、

「習慣にできる」ことと、
「習慣にしていい」ことは同じではありません。

ユーザーにとって価値のある行動を続けやすくしているのか。

それとも、

サービス側の都合で戻ってこさせているのか。

同じ「継続」でも、意味は違います。

行動を変えるデザインほど、

誰のための行動なのか

を考える必要があります。

DESIGNER’S QUESTION

DESIGNER’S QUESTION
08

その行動を続けるために ユーザーの「意志」ではなく
「環境」で助けられることはないだろうか?

NEXT THINK

習慣になるまでには、

同じ状況で行動を繰り返す必要があります。

でも、

習慣になる前に、やめてしまったら?

そこで私たちは、

スタンプ。

ポイント。

進捗バー。

「あと3回」。

といった、

ゴールまでの距離が分かる仕組み

を使うことがあります。

例えば、10個集めるスタンプカード。

最初の1個から2個目より、

8個から9個目の方が、なぜか頑張れる。

遠くにあったゴールが近づいてくると、

「ここまで来たなら、最後までやろう」

と思う。

では、

NEXT THINK

あと少しになると
なぜ私たちは
頑張れるのでしょうか?

→
#09
あと少しになると、なぜ頑張れるのか?
― Goal Gradient

参考・関連資料

ラリー(Phillippa Lally)ほか(2010)
“How are habits formed: Modelling habit formation in the real world.”

日常生活の中で同じ状況において行動を繰り返したとき、自動性がどのように高まるのかを調べた研究です。習慣形成までの期間には大きな個人差があることや、一度行動できなかったことが習慣形成を大きく損なわなかったことなどが報告されています。

ウッド(Wendy Wood)&ルンガー(Dennis Rünger)(2016)
“Psychology of Habit.” Annual Review of Psychology, 67, 289–314.

習慣と文脈、反復、自動性などについて整理したレビュー論文です。

『超リアルな行動心理学』#001「継続するためのコツ」
すでに習慣になっている行動に新しい行動をつなげること、他人を巻き込むこと、行動を始めるハードルを下げることなど、「継続するためのコツ」が身近な例から紹介されています。

本記事のテーマに関連する研究・書籍・資料を、内容確認やさらに学びたい方のために掲載しています。
掲載資料のすべてを筆者が通読したものではありません。